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第8章 かたちを与える

部屋の机には、布と糸と針が並べられていた。 どれも彼女が日々の教育で扱ってきたものだったが、今日だけは意味が違う。模様を整えるためではなく、失ったものに形を与えるために使うのだ。 エルジェベータは白い布を手に取り、指で柔らかさを確かめると、迷わずはさみを入れた。

耳、輪郭、胴。思い出すたびに形は少しずつ決まっていく。針を通し、縫い目を整え、中に詰め物を入れる。多すぎれば取り出し、足りなければ足す。 完成したのは、両腕で抱えられるほどのロバの顔をしたぬいぐるみだった。 エルジェベータはしばらくそれを見つめる。 「……似ている」小さく呟くが、すぐに目の位置が少し高いことに気づき、糸をほどいて縫い直した。

完成したぬいぐるみを抱くと、胸の奥がほんの少し埋まる感覚があった。 軽く、体温もなく、返事もしない。当然だった。 それでも、そこに形があるというだけで、昨夜までの空白とは違っていた。

「……ドンキィちゃん」

名前を呼ぶ。返事はない。分かっていても、彼女は少しだけ待った。

夜、ぬいぐるみをベッドのそばに置き、エルジェベータは横になる。夢は来ない。それでも手を伸ばせば布に触れられる。そこにある。何もない夜ではなかった。 朝、侍女がぬいぐるみに一瞬だけ視線を落とすが、何も言わずカーテンを開ける。エルジェベータは光を見ず、ぬいぐるみだけを見ていた。

だが日が経つにつれ、足りないものははっきりしていく。ぬいぐるみの目はどこも見ていない。床に立たせてもすぐに倒れる。抱けば形は崩れ、返事はない。 「……見て」そう言っても、黒い糸の目は動かない。 エルジェベータは静かに理解する。形はできた。けれど、動かない。見ない。応えない。足りないものは、もう分かっていた。