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第12章 壊れた舞踏会

地下室は、かつての保存庫ではなくなっていた。 石壁には布が掛けられ、古い燭台に火が灯され、床にはエルジェベータが描いた円の跡が残っている。彼女はそこを大広間にしようとしていた。 鹿の顔をした者、鳥の顔をした者、狼の顔をした者、そしてロバの顔をした者。誰も動かない。誰も笑わない。それでも、彼女は配置を直し続けた。

「あなたはそこ。鹿の婦人は少し右。鳥はもっと後ろ」彼女は静かに指示を出す。返事はない。 だが、その方がよかった。余計な言葉は、夢を壊す。彼女は自分で音楽を思い出し、ポルカ、ワルツ、フォックストロット、メヌエットの断片を口ずさむ。 けれど音はひとつにならず、地下室の湿った空気に吸い込まれていった。

侍女の姿はもうない。使用人たちの足音も、屋敷から減っていた。誰もが異変に気づき始めていたが、伯爵令嬢の部屋の奥で何が起きているのか、はっきりと知る者はいなかった。 エルジェベータだけが、夢に近づいていると信じていた。動物の顔は揃っている。配置も似ている。光も、踊りも、思い出せる。

だが、決定的に違う。あの広間には重さがなかった。ここには、重さしかない。あの世界では音が光になった。ここでは、濡れた石と古い空気だけがある。エルジェベータはロバの被り物の前に立ち、そっと手を伸ばす。「……ドンキィちゃん」返事はない。

その瞬間、彼女はようやく理解する。これは作れるものではない。形を揃えても、役割を与えても、誰かを黙らせても、あの夢にはならない。ドンキィちゃんは、現実にはいない。地下室に並んでいるものは、すべて違う。違うものを、違うと分かりながら並べ続けていただけだった。

エルジェベータは地下室を出た。階段を上がる足取りは不思議と静かだった。もう怒りも焦りもなかった。ただ、疲れていた。長い夢から覚めたように。そして、もう一度だけ、本当の夢へ戻りたいと思った。