その一言から、すべてが変わった。 エルジェベータは使用人をもう一度離れた位置に立たせ、「おいで」と呼んだ。今度は礼をせずに来る。 だが足が少し止まる。「止まらないで」彼女が言うと、彼は「申し訳ございません」と答えた。 その謝罪が、さらに違っていた。 「謝らないで。何も言わないで」
何度も繰り返すうち、彼女の指示は細かくなっていく。 「ここを見て」「考えないで」「自然に来て」使用人は従おうとした。品位ある使用人として、命令に応えようとした。だが応えようとするほど動きは固くなり、呼吸は乱れ、ロバの被り物の奥で目が揺れた。 その必死さが、エルジェベータには許せなかった。 ドンキィちゃんは努力しない。怯えない。崩れない。
やがて彼女は机の上の細い棒を手に取る。 最初は肩の位置を直すためだった。「ここ」少し強く当てる。使用人の体が揺れる。 「違うって言っているの」声は静かだが、力は増していく。彼が無意識に一歩下がった瞬間、エルジェベータは完全に冷めた。 ロバの顔の奥に、恐怖が見えたからだ。
その後のことは長くは続かなかった。音が何度か部屋に響き、やがて動きも呼吸も止まる。エルジェベータはしばらく立ち尽くし、被り物を外した。そこにあるのは、ただの顔だった。「……違う」それだけを呟いた。
夜、彼女は誰にも見られない時間を選び、亡骸を屋敷の奥へ運んだ。そこには、かつて食料や酒を冷やして保管していた地下室がある。今は使われておらず、湿った空気と古い石の匂いだけが残っていた。 エルジェベータは階段を降り、奥の暗がりへそれを置く。整えるように、静かに。
数日後、侍女が「あの者の姿が見えませんが」と尋ねると、エルジェベータは「辞めたのよ。急にいなくなったわ」と答えた。侍女はそれ以上聞かなかった。 だがエルジェベータは、もう次に必要なものを考えていた。